【ユーザビリティ向上】ヒューリスティック評価
ユーザの満足を得るためにはユーザビリティの向上が不可欠です。
どんなに製品(機能)やサービスが高機能・高性能でもユーザが簡単に使えず、操作方法が理解できなければ使いモノにならず、製品・サービスの魅力が半減してしまいます。
本記事では、ユーザビリティ向上の評価手法の一つとして、ヒューリスティック評価を紹介いたします。
1. ユーザビリティとは
ISO 9241-11で、「ユーザビリティ(usability)」は以下のように定義されています。
特定の利用状況において、特定のユーザによって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、ユーザの満足度の度合い。
引用元:ISO 9241-11
2. ヒューリスティック評価
ユーザビリティの問題点を指摘するために用いられる手法のひとつに「ヒューリスティック評価」があります。
ヒューリスティックスとは「経験則」を意味し、ヒューリスティック評価とは、ユーザビリティに関する経験則に基づき、ユーザインタフェース上の問題を探索する手法です。
※ヒューリスティック評価のメリットとしては、特別な環境等を必要とせず短期間で評価できる為、コストを抑えることができる点とプロトタイプや仕様書など開発の早い段階から評価を行うことができる点です。
代表的なヒューリスティックス(経験則)としては、ユーザビリティ研究の第一人者であるヤコブ・ニールセン氏が提唱したユーザビリティを向上させるための10カ条があります。
これを「10ヒューリスティックス」と呼びます。
① ヤコブ・ニールセンの10ヒューリスティックス
10ヒューリスティックスは以下のとおりです。
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システムの状態がわかるようにする(Visibility of system status)
システムの状態が視覚的にわかるようにする。 例:「検索中・・・」「20%ダウンロード済み」のように待ち状態を示すカーソルや進捗を示すプログレスバーを表示する。 -
実際の利用環境に適合したシステムを作る(Match between system and the real world)
専門用語や社内用語は使用せず、実社会のなじみある言葉で表現する。 例:「シャットダウン」でなく「電源を切る」と表記する。
削除ファイルの格納場所を「ゴミ箱」と表現する。 -
ユーザに操作の主導権と自由を与える(User control and freedom)
ユーザにコンピュータに操られている感覚を与えない。 例:操作を間違えた場合は「取り消し」や「やり直し」が可能とする。 -
一貫性を保ち標準に倣う(Consistency and standards)
同じように操作をすれば同じ結果が得られるようにする。 例:Webサイト内ではページデザインを統一する
異なる画面間でも、操作は類似の手順で実行できるようにする。 -
エラーを防止する(Error prevention)
事前にエラーを防止する仕組み、表示を行う。 例:入力フォームの必須項目には印をつけて目立たせる。
パスワード変更など実行前にダイアログでユーザの意思確認を行う。 -
記憶を呼び起こさなくても、見ただけでわかるようにデザインする(Recognition rather than recall)
ユーザの記憶に頼らない(依存しない) 例:選択肢などを示してユーザに選ばせる。 -
柔軟性と効率性を持たせる(Flexibility and efficiency of use)
1つのユーザインタフェースで全てのユーザを満足させるのは困難なため、ユーザのレベルによりインタフェースを変更して操作性を良くする。 例:初心者向けに「初めてガイド」、上級者向けに「ショートカット」を設ける。 -
最小限で、美しいデザインにする(Aesthetic and minimalist design)
デザインはシンプルに。不要な情報を詰め込みユーザへ混乱を与えない。
ただし単に質素であれば良いわけではなく、必要最小限の美しさも必要。 例:表示する文字の大きさや色が適切で、効果的に画像も使用する。 -
ユーザがエラーを認識し、診断し、回復できるように支援する(Help users recognize, diagnose, and recover from errors)
エラーが発生した場合は、ユーザはエラーメッセージを頼りに問題解決できるようにする。 例:404エラーだけでなくカスタムメッセージを表示する。
誤った入力がある場合、どの項目が誤りなのかを一目でわかるよう目立たせる。 -
ヘルプや説明文書を用意する(Help and documentation)
ユーザを補助するためにヘルプやマニュアルを準備する。 例:FAQを用意する
機能説明だけではなく、手順を示す。
② ヒューリスティック評価の実施手順
ヒューリスティック評価の大まかな流れは以下となります。
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目的、対象範囲を設定
対象物のターゲットユーザなども踏まえ、目的や対象範囲を決めます。 -
根拠とするヒューリスティックスを設定
どのヒューリスティックスを用いて(根拠として)評価をするのかを決めます。
(今回ご紹介をした「10ヒューリスティックス」でなくとも構いませんが、個々の評価者が自分好みの原理原則で評価するのでなく、何かしら共通のガイドライン等を用いて評価を行います) -
評価を実施
2.で設定したヒューリスティックスを根拠として評価対象のルール違反を探索し、問題点をリストアップします。
問題点リストには、問題の具体的内容と根拠とするヒューリスティックスを記載します。 -
評価者ミーティングを実施
評価を終えた後は、評価者全員が一堂に会したミーティングを行い、結果を持ち寄りディスカッションします。 -
評価結果のまとめ
ディスカッションの記録を元にユーザビリティの改善すべき点をレポートとしてまとめます。
③ 評価のポイント
より効果的な評価をするためのポイントは以下となります。
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複数名の評価者が単独で評価する(複数の視点で評価する)
1人の評価者では問題点を多く見逃してしまう可能性があるため、複数名で評価することが推奨されます。
また、複数名の評価者が手分けして評価するのではなく、個々が同じ対象に対して単独で評価します。
※ヤコブ・ニールセン氏は「1人の評価者では35%の問題点しか発見できない、少なくとも3人の評価者がいれば妥当な結果が得られる」と示しています。 -
論理的に指摘する
個人の好みやただのクレーマーにならないよう、開発者・デザイナーが納得できる根拠を示します。 -
改善案も提示する
問題の指摘だけでなく、改善案も提示します。
3. まとめ
ユーザビリティは、利用者増、販売増に直結するユーザの満足度に大きく影響を与えます。
そのためユーザビリティの向上は非常に重要です。
しかし、その評価は担当者の知識や経験に基づいて行われることが多く、基準が曖昧で定量的な評価ができていないことがあります。
このことから評価者好みによる「使いやすさ」が基準とならないように根拠ある問題の抽出をすることが重要となってきます。
今回ご紹介した10ヒューリスティックスなどを用いて根拠ある問題を抽出し、ユーザビリティ向上にお役立ていただければ幸いです。
当社では、ユーザビリティに関する評価・検証についてもご支援しています。
自社の開発者などが評価を行う際は、対象物を深く知っているが故、無意識にバイアスがかかっていることが多く、客観的視点での評価が難しい場合があります。
第三者検証では、「思い込み」や「あたりまえ」などのバイアスがない状態で対象物を客観的に見ることができ、内部の視点では表面化されない問題点の抽出が期待できます。
ご興味のある方はぜひお気軽にお問い合わせください。